GABAとはアミノ酸の一種で、リラックス効果や血圧を下げる効果、ストレスを軽減させる効果などがあるとして注目されている成分です。名称はγ(ガンマ)-アミノ酪酸(gamma aminobutyric acid)です。
GABAの歴史は1950年に哺乳動物の脳から発見されたところから始まります。
そこから注目され、研究の末、GABAは中枢神経で働く神経伝達物質であるということが判明しました。これにより、1961年にはGABAを主成分とした医療用医薬品が承認されました。1979年には消化管においても神経伝達物質として働いていることが判明し、その後人間の体の様々な部位で発見されています。このことから、GABAは人間の体において必要不可欠な存在であるということがわかりました。
GABAはもともと人間の体内に存在している成分ですが、漬物や味噌などの発酵食品にも含まれています。特にGABAは発芽玄米に多く含まれており、その含有量は、白米や玄米の数倍といわれています。GABAは、お麩などのもととなるグルテンに含まれる神経伝達物質グルタミン酸や、イチョウ葉エキスからも合成されます。
GABAの代表的な働きであるリラックス効果については、メディアでも多く取り上げられています。GABAは神経の高ぶりを抑える働きを持ち、ストレスや運動時に高まる興奮状態を抑えます。興奮状態では脳内のアドレナリンが活発に分泌されますが、GABAはアドレナリンの分泌を抑制します。GABAを多く摂ることで興奮状態を抑え、体が休まりやすい「リラックス状態」へと導きます。GABAはアドレナリンの分泌を抑えることで血圧を正常にし、酸素の供給を助ける働きもあります。この血圧降下作用により、GABAは特定保健用食品(トクホ)に認定されています。
GABAの生成に欠かせない栄養素には、カツオやマグロに多く含まれるビタミンB6が挙げられます。ビタミンB6はたんぱく質をアミノ酸に分解するサポートをし、GABAをはじめとする神経伝達物質の合成に働きます。ビタミンB6の不足によって、GABAがつくられないと、イライラや情緒不安定、不眠が引き起こされます。
人間はリラックスしているときにα波という脳波を出します。GABAを摂取することでこのα波が増加するため、GABAにはリラックス効果があることがわかっています。脳がストレスを感じる仕組みには、活動、緊張などの状態をつかさどる交感神経と、休息、リラックスなどの状態をつかさどる副交感神経が大きく関わっています。ストレスを感じると脳が緊張状態になるため、交感神経が活発に働き、神経が高ぶります。自律神経のバランスが崩れてしまい、胃潰瘍[※7]や不眠、高血圧など、体に支障をきたしかねません。特に胃はストレスに対して非常に敏感な器官であるため、慢性的にストレスを感じると過剰な胃酸を分泌し、胃や十二指腸の粘膜を攻撃してしまいます。GABAは副交感神経を活発にして心と体を落ち着かせることで、このようなストレスからくる症状や悪影響を防ぐことができます。また、GABAは神経を抑制するリラックス効果から、更年期障害にみられる不定愁訴(ふていしゅうそ)を改善するということもわかっています。GABAによって、ストレス状態がどのように変化するのかを調べた実験では、高所恐怖症の男女に吊り橋を渡らせるときに、GABAを摂取することによって、精神的なストレスが緩和されていたことがわかりました。これは吊り橋を渡る前と中間地点、渡った後に唾液を採取し、精神的なストレス状態によって唾液中に放出されるクロモグラニンAという物質を調べた結果です。また、吊り橋を渡る前後に心理テストを行ったところ、GABAを摂取することで、緊張や不安を抑えられる効果も明らかになりました。
血圧が高い状態が続くと、動脈硬化や心臓病、脳卒中を引き起こす危険性があります。高血圧の原因として、塩分の過剰摂取や遺伝、ストレスなどが考えられます。GABAは腎臓の働きを高め、血圧の上昇の原因となる塩分(ナトリウム)を排出する効果があるといわれています。さらに、GABAは正常血圧には影響せず、高血圧に対してのみ血圧降下作用を発揮するということもわかっています。動物実験はもとより、人間においても臨床試験で血圧を降下させる作用が明らかになっています。またGABAは動脈硬化を引き起こすコレステロールと、中性脂肪の増加を抑制します。
そのため、動脈硬化や糖尿病の予防にも期待されています。
パーキンソン病ラットの骨髄にGABAを投与したところ、パーキンソン病症状の改善が見られたことから、GABAがパーキンソン病予防に有益であることが示唆されました。
出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21235809
ラットにGABA 50, 100mg/100g を摂取させたところ、成長ホルモン濃度およびタンパク質合成速度が高まったことから、GABAは成長促進効果を持つことが示唆されました。
出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16755368
高血圧自然発症ラットにGABA を0.15% 含む餌を8週間摂取させたところ、血圧が低下したことから、GABAが高血圧予防効果を持つことが示唆されました。
出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15630275
皮質性小脳萎縮(CCA) 患者10名を対象に、GABA含有薬「ガバペンチン」400mgの単回治療および治療後900-1600mg を4週間摂取させたところ、運動失調が改善されたことから、GABAが脳神経疾患予防効果を持つことが示唆されました。
出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15218338
グレリンは、食欲を司る物質です。グレリンを脳室内投与すると食欲を減少させることが知られています。この食欲の減少のメカニズムは、グレリンがGABAの合成および放出を抑制することによると考えられており、GABAと食欲との関連性が示唆されています。
出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22549983
健常人63名を対象に、GABA 100mg を摂取させたところ、EEG(脳波)活性(α波およびβ波:精神ストレスに依存する)が低下したことから、GABAがストレス緩和効果を持つことが示唆されました。
出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22203366
高血圧患者80名を対象に、GABA 20mg 含有するクロレラ食品を12週間摂取させたところ、収縮期ならびに拡張期血圧が低下したことから、GABAが高血圧予防効果を持つことが示唆されました。
出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19811362